TNFD自然関連リスクと機会と自然資本について

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企業戦略策定に向けたTNFD自然関連リスクと機会と自然資本

出典: 自然関連財務情報開示タスクフォースの提言 2023年9月 (tnfd.global)

 先の追加ガイダンス「TNFDを始めるには」に続く2つ目のガイダンスとして、「自然関連問題の特定と評価のためのLEAPアプローチ」について、この追加ガイダンスについてご紹介いたします。このガイダンスの前半は、自然と社会の相互作用の理解を深める内容になっています。

 まず初めに「自然」ですけれども、ここでは自然を4つの領域で構成されているとされています。それは、淡水海洋、そしてこれらをとりまく大気、この4つです。そして社会というのは、この枠組の中心に位置していて、これら4つの自然と相互的、横断的に作用しているものだとされています。そしてこの「社会」自然に依存し、またインパクトを及ぼしているとしています。そして社会は自然の損失に加担する一方で、その影響も受けています。これが依存とインパクトに関する考え方で、これが自然と社会の相互作用を理解する為にカギとなるものです。したがって、この後、依存とインパクトの詳細についてご紹介していくことになります。このような自然と社会との関係をよく表した例として、TNFDでは先住民族について記載があります。

 A spatial overview of the global importance of Indigenous lands for conservation, Nature Sustainability.

 これは4つの開示項目の1番最初のガバナンスの中に、3つほど開示項目がありますが、その中の3つ目として、ガバナンスC.ステークスホルダーの中に新たに書き加えられているものです。この先住民というのが「社会は自然の中に組み込まれている」ということをよく反映しており、これに対するガバナンスがTNFDでは求められています。先住民族は世界人口の5%未満しかないにも関わらず、生物多様性の80%を保護することに成功しており、生物多様性の減少が30%少なく、その速度も30%遅いということが研究結果で報告されています。これが、社会というが自然の中に組み込まれている、ということをよく表す事例として挙げられています。そのために先住民族は、自然の喪失による悪影響を特に受けやすいと言われています。

わかりやすくTNFD自然関連リスクと機会と自然資本について

出典: 自然関連財務情報開示タスクフォースの提言 2023年9月 (tnfd.global)

 そこで、自然資本を維持するための自然関連課題を理解するにあたって「依存とインパクト」そして「リスクと機会」についてご紹介いたします。自然とビジネスの間にはお互いに関係があり、それが依存とインパクト、それによって生じるリスクと機会、このように整理することができます。まず初めに、依存とインパクトについてご紹介致します。これは、自然と企業との相互作用を表しているものとお考えください。

 「依存」というのは、企業が経済活動を行うにあたって、自然を利用しているというものです。例えば生態系サービスの利用ということを考えると、この依存が分かりやすいでしょう。例えば、食品産業で言えば水や土壌、気温、これなどが生態系サービスとして利用しているわけで、自然に対する依存と言えるでしょう。半導体産業においても水は欠かせないものですし、精密機械産業においては清浄な大気、というものがこの依存に相当するものでしょう。というように、この企業活動をするにあたって生態系サービスを利用しており、これを依存と言っているわけです。

 その逆で、「インパクト」というのは、企業が経済活動を行うにあたって、自然に何らかの影響を及ぼしている状態をこれをインパクトと呼んでいます。例えば、水質の汚濁、大気の汚染、このようなものがインパクトになるわけです。またインパクトというのは、ここではマイナスの要因だけに限りません。プラスの要因としては、水質であれば浄化、大気においても浄化というように、プラスの要因もインパクトとして取り上げます。

 このように依存とインパクトというのは、自然と企業との相互作用についてのものだとご理解ください。それを受けて、与えられた影響が「リスクと機会」というものです。TCFDでもリスクと機会は出てきましたが、この生物多様性についても同じような考え方ができます。「リスク」というのは、マイナス要因のことで、例えば生態系の損失、自然災害、それによる原材料の高騰、つまり目的に対する不確実さ影響という事ができますが、これらのマイナス要因をリスクと言います。
 一方で、「機会」というのは、プラスのインパクト要因とマイナスのインパクト要因の緩和が与える影響に起因するもので、新規需要、新ビジネスの創出、生態系の回復/復元、などが機会として扱われます。このような依存とインパクト、リスクと機会という考え方を用いて、自然がどのように状態が変化していくのかを考えていくことにしましょう。

インパクト要因について

出典: 自然関連財務情報開示タスクフォースの提言 2023年9月 (tnfd.global)

 まず、自然の状態というものを少し振り返って確認しておきます。自然の状態というのは、生態系に着目した場合、その範囲や状態のことを指します。また種に着目した場合、その個体数や絶滅リスクを指します。このような自然の状態を変える要因として2つあります。1つは「インパクト要因」、もう1つは「外部要因」と言われているものです。まず初めに自然の状態を変えうるインパクト要因からご紹介します。

出典: 自然関連財務情報開示タスクフォースの提言 2023年9月 (tnfd.global)

 これは5つの要因から成り立っています。上図で示されている5要因が、自然の状態を変えうる要因になっているということです。そして、例えばこの1つの要因に対して、インパクトというのはマイナスの効果だけでなく、プラスの効果もあるということです。以前にご紹介した気候変動課題に関しては、温室効果ガスを指しますけれども、その排出に伴うマイナスのインパクトだけでなく、その削減によってもたらされるプラスのインパクトもあるわけです。というように、ひとつひとつのインパクト要因に対して、マイナス要因とプラス要因が挙げられます。そして、これら1つ1つの要因というのは独立しているわけではなくて、相互に影響を与えることがあります。

 例えば、気候変動の要因というのは、その他の生態系サービスに影響を与えるといった場合です。またマイナスのインパクトというのは、生態系サービスを損失させるために、それに依存している企業活動にも影響を及ぼす事から、その依存に大きな影響を与えます。そのように、このマイナスのインパクトと依存とが影響し合って、そういったものが様々なインパクトと相互に影響を与えながら、複雑化していく傾向が見られます。このようにして自然の状態が変わっていきます。これが5つのインパクト要因です。

 これ以外にも、企業活動とは関係のない「外部要因」というものが挙げられます。例えば、自然災害によって自然の状態は変わる事があるでしょう。または企業活動以外の人間活動によって、何らかの汚染ですとか、そういった要因が外部要因として考えられています。このようなインパクト要因と外部要因が、生態系サービスに影響を与えて、リスクと機会にどのような影響をもたらすのかについて、次に整理してみることにしましょう。

TNFD自然関連リスクと機会と自然資本について総括

  • 自然の4つの領域
    1. 淡水
    2. 海洋
    3. 大気
  • 社会の位置づけ
    • 社会は自然の枠組みの中心に位置し、自然との相互作用を持つ。
  • 依存とインパクト
    • 社会は自然に依存していると同時に、自然に影響を及ぼす。
    • 自然の損失に対する社会の影響が大きく、相互作用を理解することが重要。
  • 先住民の例
    • 先住民族は自然との深い関係を持ち、生物多様性の保護に成功している事例が示されている。
  • リスクと機会の分類
    • 自然とビジネスの関係には、依存とインパクトがあり、それを基にリスクと機会を整理。
    • リスク:生態系の損失や自然災害による影響。
    • 機会:新しい需要やビジネス創出、生態系の回復。
  • 自然の状態の確認
    • 生態系の範囲や状態、種の個体数や絶滅リスクが自然の状態を示す。
  • 自然の状態を変える要因
    • インパクト要因:自然の状態に影響を与える要因。5つの要因が挙げられる。
    • 外部要因:自然災害や人間活動による影響。
  • 相互作用の複雑化
    • マイナスのインパクトと依存が相互に影響し、自然の状態が変化。
  • 生態系サービスへの影響
    • インパクト要因と外部要因が生態系サービスに及ぼす影響を整理。
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