人的資本経営がESG評価を高める:KGI設定のポイント

目次

ESG評価を高める人的資本経営のKGI戦略

 はじめに、人材版伊藤レポートの視点1「経営戦略と人材戦略の連動とは」 について好事例をご紹介いたします。大和ハウスグループの統合報告書からです。その中から、「社会性中期計画」という項目の中からご紹介します。

出典: 大和ハウスグループ 統合報告書2019

 この計画はピラミッド構造をしていて、下から頂点へ見ていきますと、
最初に「人材基盤の重要課題への取り組み」を行います。
次に「働きがいのある会社の実現」として、夢への挑戦を通じて成長を実感ですとか、挑戦できる安心感、を掲げています。
さらにそれらを通じて、事業を通じて人を育てる会社、従業員の生活環境の確立、を目指した計画になっています。

 この計画の中の最初の部分である「人材基盤の重要課題への取り組み」というのは、3つの重要課題から成り立っていて、① 従業員の働き方改革、② 人材育成と採用強化、③ダイバーシティ&インクルージョン、の3つが挙げられています。
この3つの重要課題がKGI(経営目標指標)に落とし込まれて、数値目標として落とし込まれています。

 例えば1つ目の「従業員の働き方改革」では、「ITやAIを使った業務改善」と「従業員の健康」の2つを天秤にかけて、その両立を狙うことで働き方改革を実行して、働きがいに関する実感度80%を設定しています。

 2つ目の「人材育成と採用強化」は、創業者精神などを踏まえた人材育成やキャリア支援などの環境整備を行うことで、入社3年目までの若手社員の定着率90%以上に設定しています。

 3つ目のダイバーシティ&インクルージョンでは、従業員の多様性を尊重し、かつそれぞれが働きがいを持って個々の能力を発揮できる職場環境を構築することを目的として、ここに書いてあるような、①管理職女性比率、②女性管理職ライン長比率、③女性工事比率、④女性営業比率、⑤新卒採用女性比率、の5つの指標で数値目標を設定しています。

 このようにして、社会性中期計画として掲げられている、こちらのピラミッド構造から、具体的な人材戦略に向けたKGI設定へと落とし込まれている事例となっています。

人的資本経営の人材戦略と経営戦略の連動によるESG対策

出典: 株式会社カプコン 統合報告書2019

 続いての好事例として、株式会社カプコンをご紹介いたします。こちらにお示ししているのは価値創造プロセス(オクトパスモデル)です。このモデルは、企業価値を創造するためのプロセスをモデル化したもので、初めにここにあるような様々な資本を用いてインプットし、その資本を活用することで、ビジネスモデルに基づいて事業活動をすることで価値を創造して、そこで得られた製品やサービスなどがアウトプットとして創出されて、社会的な価値を持つアウトカムとして貢献していくというプロセスを表しています。この価値創造プロセス(オクトパスモデル)については、別途に詳細に解説していますので、そちらをご覧いただければと思います。


 この価値創造プロセスの中で、最初の資本の中で人的資本に相当するものとして、「持続的成長の基盤」における「開発人材の育成と活用」が掲げられています。人材戦略について、価値創造プロセスの中で、このような人的資本の位置づけから出発しています。更には下の表にあるように、ESGの取り組みの視点で取り上げています。この中で、S(社会)の中に掲げられていて、「従業員との関係」として「外国人の積極採用」「女性管理職の増加」、また事業・経営への寄与として「優秀なクリエイターの確保」「クリエイターの生産性の向上」が挙げられています。

出典: 株式会社カプコン 統合報告書2019


 実際にそれらの実績は、下のグラフにあるようにKPIによる実績値で示されています。例えば「外国人の積極採用」「女性管理職の増加」においては、女性社員比率や外国人従業員比率としてこちらのグラフに示されています。また「優秀なクリエイターの確保」や「クリエイターの生産性の向上」においては、こちらのグラフに「コンテンツ開発者数」や「内作比率」として示されています。

出典: 株式会社カプコン 統合報告書2019


 この様に今まで見てきましたように、経営戦略と人材戦略の連動は難しい部分をはらんでいますが、人的資本経営においては本質的な取り組みであり、しっかりと連動された人材戦略を作り込む必要があるでしょう。

次には、視点の2つ目である戦略立案に向けた具体的なKPIの設定の方法についてご紹介いたします。

人的資本経営がESG評価を高めるKGI設定のポイントを総括

  • 人材版伊藤レポートの概要:
    • 経営戦略と人材戦略の連動が重要であり、人材戦略は経営戦略の一部として扱われる。
  • 大和ハウスグループの事例:
    • 社会性中期計画:
      • ピラミッド構造で構成される。
        • 下部: 人材基盤の重要課題への取り組み。
        • 中部: 働きがいのある会社の実現を目指す。
        • 上部: 事業を通じて人を育てる。
  • 人材基盤の重要課題:
    1. 従業員の働き方改革:
      • ITやAIを活用した業務改善と従業員の健康の両立(実感度80%目標)。
    2. 人材育成と採用強化:
      • 創業者精神に基づく育成と入社3年目までの若手社員定着率90%以上目指す。
    3. ダイバーシティ&インクルージョン:
      • 女性の管理職比率や新卒採用の女性比率など、数値目標を設定。
  • カプコンの事例:
    • 価値創造プロセス(オクトパスモデル):
      • 様々な資本を活用し、ビジネスモデルに基づいた事業活動から価値を創出。
    • 人的資本の育成と活用:
      • 従業員の関係や多様性確保、優秀なクリエイターの確保など、ESGの取り組みを通じて成果を上げる。
  • KPIによる評価:
    • KPIを用いた実績評価が行われ、女性社員比率や外国人従業員比率などが具体的に示される。
    • 優秀なクリエイターの数や生産性の向上もKPIで示される。
  • 人的資本経営の重要性:
    • 経営戦略と人材戦略の連動が難しいものの、本質的な取り組みとして重要。
    • しっかりと連動された人材戦略を作り込む必要がある。
  • 今後の課題:
    • 戦略立案に向けて具体的なKPIの設定が必要。
  • URLをコピーしました!
目次