生物多様性の問題、なぜ必要か?
生態系サービス4つから生物多様性の問題となぜ必要か考える

まず初めに生物多様性についてです。生物多様性というのは、このような6つの分類から成り立っていると定義されています。
1つ目は生態系の多様性で、これは生き物が生息する環境には、森、里、川、海のような多種多様の自然があります。これらの環境では、異なる生き物がそれぞれ独自の生態系を作っており、これらを生態系の多様性と呼んでおります。
2つ目は種の多様性で、生き物には動植物から細菌などの微生物に至るまで様々な種があり、地球上には500万種から3000万種の生物種が生存していると推定されています。これらが、種の多様性と呼ばれているものです。
3つ目は遺伝子の多様性で、ここににあるのはアサリですが、アサリの貝殻のこの模様は一個体ずつ異なっていて、遺伝子の多様性を示しています。このような同じ種でも異なる遺伝子を持っているようなものを、遺伝子の多様性と呼んでいます。
これらの全ての生態系は単体で存在しているわけではなくて、お互いに補完し合って生きています。そのためこれらの生物の多様性が失われると、その影響が他の生き物にも及び、全体のバランスが崩れるわけです。この生物多様性というのは、このような生態系を育み、外からの圧力、外乱に対して、回復力を高める役割があり、また、この後解説します生態系がもたらす恵み、生態系サービスへのリスクを低減させるなどの役割があります。そこでこの生態系がもたらす恵み、生態系サービスについてご紹介したいと思います。
生態系サービスとは

生態系サービスというのは、私たちが 生態系から得られる恵みのことで、例えば、食料、燃料、木材、水などのようなものは、「供給サービス」と呼ばれていて、その他にも、遺伝子資源、薬用資源、観賞資源などが知られています。また生態系サービスには、レクリエーションや環境の場と機会を与えてくれたり、豊かな文化、芸術などのような文化的なサービスに区分されるものがあり、自然の景観やその他が「文化的なサービス」として分類されています。さらに、豊かな土壌や大気に伴う酸素の供給などのようなものは、「基盤サービス」と呼ばれています。また、防風や洪水による被害の緩和だったり、土壌流失の防止などのような「調整サービス」、例えばその他にも水量調節や水質浄化、土壌侵食の抑制など、このような調整サービスと呼ばれる分類があります。

私たちの暮らしはこのような自然の恵み、「生態系サービス」によって支えられていると言えます。企業活動も同様にこの生態系サービスを享受して、経済活動が行われているわけです。このことを「自然資本」と呼びます。
自然資本とは

この自然資本というのは、企業活動を行っていく中で必要な資本の1つとして考えられているものです。自然界には豊かな生物多様性によって、自然資本が支えられています。この自然資本をもとに生態系サービスが得られるわけで、これを元に企業活動が行われます。その結果、企業は生態系サービスを受けることによって、価値を生み出してその経済活動を営んでいるわけです。世界経済フォーラムが発表するグローバルリスク報告書によると、全世界のGDPの半分以上がこの自然資本に依存していると報告されています。したがって、この生物多様性に支えられた自然資本が企業経営に与える影響は、非常に大きくてその重要性が高まっているわけです。
生物多様性はなぜ必要か?生物多様性の問題の本質
ここで、自然資本の役割について考えてみることにしましょう。生物多様性などによって生態系が構築されて、それによって自然資本が成り立っているわけです。資本というのは、耐用年数を通じてサービスの提供が可能であり、自然資本の場合は、生物多様性の高い生態系ほどサービスに対して高い生産性を持っています。そして企業は、この自然資本と人工資本、例えば道路、建物、機械などと、人的資本を十分に活用して新たな価値を創造して経済活動が営まれているわけです。ですからこの経済活動というのは、この生物多様性に依存しており、その中でこの生態系に依存しているということが言えるわけです。そのことはこの図に示してあって、この経済というのはあくまでもこの生態系の中に組み込まれている、このような理解に基づいて生物多様性に対する経済活動を理解する必要があります。そこで目指すべき持続的な経済活動というのは、イギリスのケンブリッジ大学ダスグプタ教授によると、1つ目として、人間の需要が地球の供給能力を上回らないこと、2つ目として、経済的成功の基準として自然資本を含む包括的な富を指標にすること、などを提唱しています。そこで、この自然資本の推移について見てみることにしましょう。

上図は1992年を基準として、そこからこれらの3つの資本についての推移を表したものです。この人工資本というのは、この20年間においておおよそ2倍程度増加していることが分かります。その一方、で自然資本はおおよそ40%ほど減少しています。この減少は、生態系の損失を反映しているものです。この自然資本の減少というのは、経済活動において大きな影響を及ぼすものです。

世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書(上図)では、ここに今後10年間の長期的なグローバルリスクの深刻度ランキングトップ10が示されております。この中で緑色に表されているものが環境の領域に属するもので、その中でも上位1, 2, 3は気候変動とそれに関するものです。その次に来ているのが、生物多様性の損失と生態系の崩壊というものです。この生物多様性の損失というのは、気候変動に次ぐ深刻な危機と指摘されています。そして世界経済フォーラムでは、全世界のGDPの約半分、44兆ドルは自然資本に依存していると報告しています。したがって、このような生物多様性の損失と生態系の崩壊ということによって、経済成長は潜在的に脅かされているということが言えます。そこでこの経済成長の脅威について考えてみることにします。

ここにあるのは1961年からの経時を表したもので、この緑のグラフは生態系サービスの容量を表していると考えてください。それに対して、この赤い線が人間活動が環境に与える負荷の量を表しています。そして、この緑色の領域というのが生態系サービスがまだ十分にある量のことを意味しており、あるところからこの関係が反転し、1970年以降は逆に生態系サービスを食い潰しているという状況になっています。そして現在では、この自然資本への需要が地球の供給能力を大きく上回っている状況にあり、現在のこの需要量を維持するためには地球が約1.6個必要であると試算されています。そこで持続的に経済活動を発展させるためには、この人間の自然資本への需要が、地球の供給能力を超えないようにしなければなりません。それを模式的に表したのが下の図になります。

地球という水の器があり、そこに入ってくる水と出ていく水が表現されています。かつては出ていく水量が、入っていく水量に対して小さかったのに対して、1970年以降はそれが逆転して、出ていく水量が、入ってくる水量よりも大きくなっているという状況になっています。このような状況を早急に改善する必要があるわけです。そこで提唱されていることとして、1つ目に1人当たりの自然資本の消費量を削減するという事、2つ目に経済的成功の基準を自然資本を含む富に変えること、そして3つ目に金融システムを活用すること、これは保全や回復に向けた投資を促すということですが、このようなことが提唱されているわけです。そして、今現在のこの地球の限界がどのような状況にあるのかを次に見てみることにしましょう。
プラネタリー・バウンダリーとは

この地球の限界のことを「プラネタリー・バウンダリー」と言います。この水色の線は、生態系の状況を表していると考えてください。現在は、健全に生態系が機能しているという事ですけれども、そこに今後ますます大きな圧力が加わって、この生物多様性が損失されていくと、ある点を境にこの生態系の状態が大きく変わり、元の状態に回復することが困難な状況になってしまいます。この原因としては、生物種の急速な減少や絶滅種の増加などが考えられています。一度このような状況になると、今までとは異なる全く新しい状態になり、回復することが困難であると言われています。そして一部の領域ではすでにこのプラネタリー・バウンダリーを超えているとされています。

上に示してあるのは、大きく9つの領域について、地球の限界との関係性を示したものです。その中で、すでにこのプラネタリー・バウンダリーを超えている領域というのが、新規化学物質、窒素、リン、そして生物多様性です。この生物多様性の領域では特に顕著で、生物種の減少や絶滅、森林の減少、海洋生物の多様性の損失などが急速に進んでいることから、生物多様性の損失が加速しており、生態系に甚大な影響を及ぼしているわけです。このことから、このような状況に対して早急に改善を行わなければならない状況にあるわけです。
ネイチャーポジティブ (自然再興)

そこで提唱されているのが「ネイチャーポジティブ」という考え方です。これは2022年12月に、昆明モントリオール生物多様性枠組というフレームワーク、GBFと呼びますけれども、その中の2050年ビジョン、自然と共生する世界、という中で盛り込まれた考え方です。上図をみると、2000年からこの生物多様性が損失されていっていることが分かります。そこでこの損失をどこかで食い止めて、さらには反転させて回復させるということが必要になってきます。2050年に向けて、自然のこの生物多様性を回復軌道に乗せるということが、このネイチャーポジティブという考え方です。
その取り組みとしては生態系の保全と回復の強化として、生物多様性を保全・再生するための取り組みの規模をあらゆるレベルで拡大する必要があり、または気候変動の緩和として、生物多様性を支える全ての取り組みが、気候変動によって損なわれることを防ぐため、気候変動を産業革命以前の水準からの2℃を大きく下回る1.5℃近くまで抑制するための気候変動対策が必要であるとか、汚染防止や侵略的外来種の対策、乱獲の抑制として、特に海洋や陸上の生態系における生物多様性の確保、などについて効果的なその他の要因の削減措置を講じる必要があったり、または、自然資本と生態系サービスの改善として、ここでは特に食料の生産において達成される必要があると考えられていて、増加する世界の需要を満たすことができる新しい農法の採用や、土地を生産用に転換しようとする圧力を低減することなどの持続可能な生産が含まれています。また、消費と廃棄物の削減として、食品廃棄を削減するような取り組みや、農業やエネルギーなどの生物多様性に影響を与える生態系サービスの消費を抑える消費の削減などということが考えられています。
そこで、ここではこの昆明モントリオール生物多様性枠組について、詳細を次に解説していきます。

総括:生物多様性の問題、なぜ必要か?
- 生物多様性の定義:
- 6つの分類から成り立っており、重要な要素として以下が含まれる。
- 生態系の多様性:森、里、川、海などの異なる自然環境。
- 種の多様性:動植物や微生物を含む生物種の多様性で、地球上には500万から3000万種が推定されている。
- 遺伝子の多様性:同じ種内でも異なる遺伝子を持つ個体の多様性。
- 6つの分類から成り立っており、重要な要素として以下が含まれる。
- 生物多様性の重要性:
- 生態系は互いに補完し合っており、これが失われると全体のバランスが崩れる。
- 生物多様性は、外部の圧力に対する回復力を高める役割がある。
- 生態系サービス:
- 自然から得られる恵みで、供給サービス、文化的サービス、基盤サービス、調整サービスに分類される。
- 企業もこの生態系サービスを享受し、経済活動を行っている。
- 自然資本:
- 企業活動に必要な資本としての生物多様性と生態系サービスの関係。
- 世界経済フォーラムによれば、全世界のGDPの半分以上が自然資本に依存している。
- 自然資本の役割:
- 資本は耐用年数を通じてサービスを提供可能で、高い生物多様性の生態系ほど生産性が高い。
- 持続的な経済活動の目指すべき基準:
- 人間の需要が地球の供給能力を上回らないこと。
- 経済的成功の基準に自然資本を含む包括的な富を指標とすること。
- プラネタリー・バウンダリー:
- 地球の限界を示す概念で、現在の生態系の健全性が重視されている。
- 一部の領域ではプラネタリー・バウンダリーを既に超えており、改善が急務。
- 生物多様性の損失の深刻さ:
- 生物種の減少や絶滅が進行しており、経済成長に影響を及ぼす。
- 「ネイチャーポジティブ」の考え方:
- 生物多様性の損失を食い止め、回復を目指す取組み。
- 2050年を見据えて、自然環境との調和を重視した経済活動の実現を図る。