従業員エンゲージメントを高める人的資本経営の実践法
従業員エンゲージメントを高める人的資本経営
ここでは、人材版伊藤レポートの中にある要素4の「従業員エンゲージメント」についてご紹介いたします。
経営戦略の実現に向けて、社員が能力を十分に発揮するためには、社員がやりがいや働きがいを感じて、主体的に業務に取り組むことができる環境の整備が重要となります。その時に、企業の理念や存在意義や企業文化に至るまで様々な要素が複合的に関係します。そこで、特に企業や事業の成長と多様な個人の成長の方向性を一致させていくことが重要になります。このような従業員エンゲージメントを高めていくことによって、企業価値の向上を測るというものです。

そこで、この従業員エンゲージメントを定量化して、エンゲージメントスコア(ES)に着目して、当期の営業利益率や、労働生産性との関係を示したグラフが上図になります。どちらの場合においても、従業員エンゲージメントとの相関性が見られることが分かります。従業員エンゲージメントは、経営戦略の実現に向けた企業価値向上の1つの要因として機能しており、人的資本経営の中で欠かせない考え方になります。
従業員エンゲージメントと企業価値の関係

はじめに、左のグラフは、アメリカの調査会社が行った従業員エンゲージメントに関する調査結果です。その対象は世界139か国に及んでいます。ここで、エンゲージメントが得られているという回答は、青の棒グラフの部分を示しており、世界平均が15%であるのに対して、日本は6%であり、これは139カ国中132位という結果になっています。このことから、日本は世界的に見ても極めて従業員エンゲージメントが低いことが分かります。
また右側のグラフには、従業員エンゲージメントと企業価値との関係について示しています。縦軸には株価パフォーマンスをとっており、100がアメリカにおける全銘柄の株価の平均を表しています。ここに示した折れ線は、高い従業員エンゲージメントを示す上位20%の企業銘柄を集めた平均株価の推移を表したものです。6年間における株価の推移を見てみますと、このグラフのように従業員エンゲージメントが高い企業は、市場の平均を上回る株価パフォーマンスを示すことが分かります。このことからも、従業員エンゲージメントは企業価値と相関があると言えるでしょう。
以上のことから、日本における従業員エンゲージメントが低い現状は、特に上場企業においては、外国人投資家から見た場合、非常に大きな問題を抱えていると言えるでしょう。
日本企業における従業員エンゲージメント

同様の指摘は日本企業によっても行われており、従業員エンゲージメントに関する調査結果をご紹介いたします。こちらは、ニッセイアセットマネージメント株式会社のサステナビリティレポートからの引用で、従業員エンゲージメントに関する記載です。左のグラフに示されている、従業員エンゲージメントの高い社員の割合の国際比較を見てみますと、日本は5%と最下位を示していることが分かります。このことから逆に言えることとして、日本企業にとっての従業員エンゲージメントの向上は、競合他社との差別化につながり、企業価値に大きな差として現れる可能性があるのではないかと提案しています。
この従業員エンゲージメントとの関係性について示したのが、右のグラフです。従業員エンゲージメントに対して、「顧客満足」「従業員の生産性」「収益性」「離職率」の4つとの相関関係について、メタ分析を行い棒グラフで表したものです。これを見て分かる通り、顧客満足・従業員生産性・収益性ともに正の相関があることが示されています。一方の離職率に関しては負の相関が見られたことから、高い従業員エンゲージメントは、離職率を抑制する効果があることが示されています。また業種別による調査結果では、製造業では収益性と強い相関がある一方で、サービス業では顧客満足と強い相関があることが分かっています。
このようなことから、従業員エンゲージメントと企業価値の向上とは相関が見られることが明らかになっています。それでは、これらの相関を示す好事例について次にご紹介いたします。

人的資本経営による従業員エンゲージメント向上実践事例
こちらに示しているのは、株式会社カプコンの事例です。5年間にわたり社員に対してエンゲージメント調査を行った結果になります。

一番上には、指標としてワークエンゲージメントとあり、偏差値として示されています。目標の55.0に向かって、僅かながら増加傾向にあることがわかります。その他の詳細な指標については、過去2期分についてここに記載されているように、高い割合を示していることが分かります。
そこで離職率についてみると単体または自己都合ともに減少傾向にあることがわかります。一方で従業員一人当たり営業利益を見ると、増加傾向にあることが分かります。このような結果は、今まで見てきた通り高い従業員エンゲージメントは、収益性と正の相関、離職率と負の相関が知られていることと一致する結果となっています。株式会社カプコンでは、ゲームビジネスを支えるのは人であり、人的資本こそが成長の原動力と考えているとのことから、引き続きこの取り組みによって持続的な企業価値向上に寄与していくと明記されています。
このような事例を参考に、経営戦略の実現に向けて社員の能力を十分に発揮して主体的に業務に取り組むことができる環境の整備を行い、企業価値の向上を目指していくことが、特に日本企業にとっては重要な課題となります。
従業員エンゲージメントを高める人的資本経営の実践法の総括
- 従業員エンゲージメントの重要性:
- 経営戦略の実現には、社員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組む環境が必要。
- 企業文化や理念が柔軟に関連し、企業や事業の成長と個人の成長を一致させることが求められる。
- エンゲージメントの定量化:
- エンゲージメントスコア(ES)を用いて、営業利益率や労働生産性との相関を示す。
- 高い従業員エンゲージメントは企業価値向上に寄与する。
- 国際的な比較:
- 日本の従業員エンゲージメントは低く、世界139か国中132位。
- 低いエンゲージメントは日本企業が抱える大きな問題。
- エンゲージメントと企業価値の関係:
- エンゲージメントが高い企業は「顧客満足」「従業員の生産性」「収益性」「離職率」にポジティブな影響を及ぼす。
- 特に製造業とサービス業でのエンゲージメントの影響が異なる。
- 従業員エンゲージメントの向上が企業価値の差別化につながる可能性。
- 具体的な事例,株式会社カプコン:
- 5年間のエンゲージメント調査を実施し、増加傾向を確認。
- 離職率は減少しており、従業員一人当たり営業利益は増加している。
- 人的資本の育成が成長の原動力と考え、継続的な企業価値向上を目指している。
- 日本企業への示唆:
- 従業員能力の充分な発揮と主体的な業務取り組みが重要な課題。
- 環境整備が企業価値向上につながる。