TNFDにおけるリスクと機会とは
TNFDのリスクと機会の開示

シナリオ分析に向けた準備として、「依存とインパクト」、及び「リスクと機会」について具体的にご紹介致します。
まず初めにインパクト要因は5つがあり、さらにそれ以外の外部要因のこれらの2つが自然の状態を変化させていきます。そのことによって生態系サービスが変わっていき、それに伴って企業はリスクと機会の影響を受けるわけです。そこで、このリスクと機会について少しご紹介いたします。
まず初めにリスクについてです。これはTCFDでも出てきましたが、同じような考え方です。リスクは、「物理的リスク」と「移行リスク」の大きく2つに分けられます。
物理的リスクというのは、自然の状態を変化させるもので、短期的に作用するものが「急性リスク」、例えば、原油の流出や森林火災、外虫の発生などです。また、段階的に変化させるのが「慢性リスク」で、長期的な農薬の使用、気候変動に起因する影響、などが相当します。
一方で、移行リスクというのは、5つほど挙げられていて、「政策」によるリスク、これはインパクトに起因して新たな対策を政府が打った場合、例えば法整備や規制、これらに関するリスクのことです。 「市場」に関するリスクは、消費者の思考の変化や市場全体の変化の事を指して、例えば生態系サービスの損失が招く企業の市場価値低下、このようなものが市場リスクに挙げられます。また、「技術」によるリスク、これはインパクトの低減をもたらす製品やサービスの代替という事で、代表的なものでは生分解性プラスチックを今までのプラスチック容器に代替していく、などのことを指します。また「評判」のリスク、これは企業が自然に与えるインパクトの印象という事ですが、評判というのは、その企業自身だけでなくて、さらにはバリューチェーンですとか、その産業界による評判も含みます。さらには、「賠償責任」によるリスク、これは自然に対する法律や規制の強化に伴う偶発的債務の発生とお考えください。例えば、訴訟のようなものです。
一方で、「機会」についても次に見ていくことにしましょう。

機会というのは、プラスのインパクト、またはマイナスのインパクトの緩和を通じて企業と自然にとって、プラスのパフォーマンスを生み出す活動のことを言います。これの1つとしては、上図にあるように「企業パフォーマンス」があります。そしてもう1つは、TNFDに特徴的な「持続可能性パフォーマンス」です。
この企業パフォーマンスというものは、例えば、新しい市場の開拓ですとか、自然資源を効率良く活用するために業務効率の改善やコスト削減、または新製品や新サービスの創造、さらには資本のフローと資金調達、評判など、これらが企業パフォーマンスと呼ばれているものです。さらに は持続可能性パフォーマンスというものが考えられていて、自然資源の持続的な利用、例えばリサイクル、再生、削減、これは3Rと呼ばれてリサイクル、リユース、リデュースなどの3R活動として知られています。または生態系の保護・再生・回復を支援する活動なども持続可能性パフォーマンスに挙げられます。
そして大切なことは、この企業パフォーマンスと持続可能性パフォーマンスは、それぞれ全く独立しているものではなくて、お互いに共存し得るもの、という考えが非常に重要になってきます。このように機会というのは、企業と持続可能性にパフォーマンスを与えるものとお考えください。そしてこの機会が発生するタイミングは、生態系サービスの損失に伴って、自然リスクの回避、軽減、緩和、管理などのようなときに生じます。または、事業変革を通じた自然損失の減速、復元、融資支援などのときにもこの様な機会を生じます。
TNFDのリスクと機会の分類

そして、このようなリスクと機会が財務に与える影響について、整理していきたいと思います。こちらの図の下方に「財務的影響」というのがあり、これはBS、PL、キャッシュフローを表しているもので、このような財務が、自然リスクがどのように影響を与えるのかをまとめているものです。
自然に関連するリスクとしては、今までお話ししたように物理的リスクと移行リスクがあるわけですが、その他にも「システミックリスク」というのがあります。これは生態系のリスクと、金融安定性リスクの2つから成り立っていて、個々のリスクに依存したものではなくて、システム全体の崩壊から生じるリスクのことで、大規模な破綻を引き起こして元に戻らないという特徴があります。このシステミックリスクの中の生態系のこのリスクというのは、今までお話しした物理的リスクと移行リスクで、そういったものが財務に与える影響というのは、こういったリスクが自然関連のリスクを与え、それに伴って財務に影響を与えるわけです。そしてこの財務に与えた影響が、一社に留まらずにある一定の規模で引き起こされると、金融システム全体の不安定化につながっていくわけです。このような金融安定性のリスクというのは、突発的な予期せぬ重大な財務的混乱を引き起こす可能性があるものです。これがシステミックリスクにつながっていくわけです。
自然関連リスクは、必ずしもリスクだけじゃなくて、機会を与えることもあります。例えば、インパクトの緩和や、さらには機会を与えることによってレジリエンスが高まり、企業のパフォーマンス、サステナビリティパフォーマンスの向上につながっていきます。このようにリスクと機会が、財務に影響を及ぼしていくわけです。

総括:TNFDにおけるリスクと機会とは
- リスクと機会:
- 自然の変化によって企業が受けるリスクと機会を把握し、対応する必要がある。
- リスクの分類:
- リスクは主に「物理的リスク」と「移行リスク」に分けられる。
- 物理的リスク:
- 急性リスク:短期的な影響(例:洪水、森林火災)。
- 慢性リスク:長期的な影響(例:気温上昇、降水パターンの変化)。
- 移行リスク:
- 政策・法規制、技術、市場、評判に関連するリスク。
- 物理的リスク:
- リスクは主に「物理的リスク」と「移行リスク」に分けられる。
- 機会の定義:
- 気候変動によるプラスの影響、特に新しい需要や事業の改善、回復などの機会。
- 財務への影響:
- 自然関連リスクや機会が財務諸表(BS、PL、CF)に与える影響を整理する必要がある。
- システミックリスク:
- 生態系リスクと金融安定性リスクを包含するリスクで、システム全体の崩壊から生じる可能性がある。
- リスクと機会の相互作用:
- 自然に対するインパクトが、企業のリスクや機会にどのような影響を与えるかを整理する。
- レジリエンスの向上:
- リスクと機会を管理することによって企業のパフォーマンスや持続可能性が向上する。